りかゝる
足どりも力なく帰つてゆく
朝鮮よ、
お前はよし老婆達に
白衣永遠の伝統を死守させたとしても
自然の大地と、人間の心とは
その伝統をうけつがない
やつれきつた朝鮮よ、
若者たちだけが
お前の本質を知つてゐる
若いものは鉄のやうに堅い靴をはいて
鉄のやうな足音をたてる
としより達は虚ろな木履を鳴らし
精一杯不平をいひながら
面事務所から連れだつてかへつて行く、
夕靄の中に老婆の一団がかへつてゆくと
靄の中から突然老婆の
鶏の叫び声に似たさけびがきこえてくる、
数人の男と老婆の群はもみあつて
山路から崖へ逃げをりようとする、
男の一団はその行手をさへぎる
――くそ婆奴
貴様の着物を
これこの通り汚してやらう、
――ろくでなしの
トクタラ婆奴
どうしてもウヌ等が
その服を脱がうといはぬなら、
わしらは染屋の
役をかつて出るわい、
逃げまどふ老婆は男達の
足で蹴られたり
手でうたれたり、
男たちは大はしやぎで
犬が老いた鶏を追つかけ廻すやうに、
手に手に墨汁をたつぷりつけた
筆をふりあげて
肩から斜めに
墨をもつて老婆の白衣にきりかゝる
――誰ぢや、
そ
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