ふことをしない、
高いところのものを撃つ、
すると下の枝のものはみな
落下する仲間をみて
驚ろいて飛び立つてしまふからだ、
彼は一番自分の手近なところから、
それは標的として可能なところからだ、
下の枝にとまつてゐる鳥から順々に
次第に上の枝のものに移り射撃してゆく、
最後の高い梢にとまつた山鳥を
撃ちおとしたときはそれで全部だ、
17
獲物を驚ろかすことは意味がない
銃は若い山林官の手に握られてゐる
ただそれだけである、
銃はアイヌの大きな手の中に握られてゐる、
鉄と木と、火薬と標尺とを
綜合されたものは鉄砲
アイヌにとつては肉体の一部のやうに
生きて使はれてゐる
山林官の銃は新式で
ケースは更に中味よりも立派であつた、
権太郎の銃はもう二十年から
使ひ古され旧式なものであつた、
山林官はアイヌ達から
さまざまのこと柄を学ぶことができた
いつも狩猟には権太郎を先達に頼み、
たがひに気のおけない冗談をいひながら、
山から山を渡りあるくことを好んだ、
いつものやうに彼は
権太郎の小屋を
銃を肩にしていま訪ねたのであつた、
犬の毛皮を幾枚も敷いたり、
巻いたり、掛けたりして、
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