集める必要があらうか、
山林官はすつかり悲観してしまふと
権太郎は傍で腹を抱へて笑ひだす、
――旦那、山鳥はかうして撃つもんだてや、
アイヌは先に立つて場所を変へ
そして呼笛のねばりのある甘い、
澄んだ音響を林いつぱいにひびかせる、
すると山鳥は前のやうに
続々と二人の頭上へ集つてくる。
16
権太郎は殆んど全身をむき出しにして
ズドン、ズドンと何時までも射撃してゐる
ばたり、ばたりと山鳥は
果実でも落ちるやうに
足元へ落ちてきて
地上で狂はしく羽を舞はしてゐる。
何としたことだ、
アイヌの銃声には
山鳥たちは驚かないのか、
そして最後の一羽まで
山鳥たちは撃たれるのを待つてゐるのだ。
アイヌは説明する、
狙ふもの、撃つもの、
射撃の目的は最後の一羽までにある、
いらいらとして無目的な射撃は
ただ標的を飛立たしてしまふだけだ――、
なんといふ貴重な教訓だらう、
アイヌは和人よりはるかに科学的である、
仕事は組織的だ、
狙ふものの、生活をよく理解し、
その習性を観察してゐる。
彼は集つてきた山鳥に
いかに肥えて美事な一羽がゐようと
高い梢に停まつてゐるものから
最初撃ち狙
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