くなつてしまつた、
彼は当惑し頭を掻きむしり残念がり、
そして連れの権太郎に救けを求める、
――シャモ、兎に
  馬鹿にされてるて、アハハ
とアイヌは腹を抱へて笑つてゐる、
そして権太郎は説明する、
かしこい兎は何時も追跡者のあることを
どんな場所でも予期してゐる、
プツリと足跡を切らしてしまふ、
兎は足跡を切るところで
数歩同じ足跡を逆戻りする
そして兎はそこで右へか左へか、
大きく精一杯脇の方へ
横とびに跳躍してしまふ、
そこからまた雪に新しい足跡をつけて進んでゐる、


    15

林の中で山鳥達を呼集める笛を
かくれながらしきりに吹く
すると山鳥たちは騒々しく
方々から集つてきて
笛を吹いてゐる上の樹の枝に
まるで鈴なりにならんで
嘴で突つきあつたり、おしやべりをしたり、
ざつと数へても三十羽はゐる、
射撃の位置はよし、銃は上等だし、
獲物はまるで手が届くところにゐる、
山林官は狙ひをさだめてズドンと撃つ、
だがどうしたことだ、
たかだか一二羽落ちてきたり、
時には一羽も撃つことができない
みんな羽音をたて、
驚ろいて逃げてしまふ、
一二羽を撃つために
呼笛をふいて三十羽も
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