プの弱々しい光りを
いちいち覗きこみながら
訪ねる家を物色する風であつた、
間もなく山林官は
小さな一軒の小舎の前に立ち
――親父、居るか、
と高い声で呶鳴ると中からは
オーといふ太い声がきこえてきた、
――誰だあ、
――おれだよ、
――あゝ、山林の旦那かあ、入れや、よく来たテ、
山林官はのつたりと小舎に入る
中ではアイヌの権太郎が突立ちあがり
意味のない感動の声をあげ
しばらくはゲラゲラと笑つて客を歓迎した、
9
この権太郎の親密な小さな村では
遠慮といふことは軽蔑され憎まれてゐたから
お客はづかづかと土間の炉に
濡れた足を突込んだ、
山林官は猜疑深いアイヌ人と
上手に話をすることを知つてゐた
それは『真実をもつて語る』といふ以外に
この異民族と語る方法が
ないことを彼はちやんと知つてゐた
斯うした真実に対してアイヌ人は
それに底しれない愛情と純情を現して応へ
アイヌ人は可憐な動作や言葉の節々にも
思はず涙がにじむほど愛すべきものであつた、
夏の頃山林官は権太郎と
村の谿谷に添つて奥へ猟に行つた、
激しい谿流に突きあたつた時
二人はそれを渡らなければならなかつた、
山林
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