めるほど
この愚鈍な百姓雑兵は
いくさの度にいやいやで出掛け
首獲りの成績では陣中第一人者だ、
彼はいくさは性に合はなかつた、
林の中にもぐりこみ
昼の内はぐつすり草の中に眠つてゐる、
その日の戦も終末に近づき
敵味方陣に引きあげる頃
やをら彼は叢の中から現れ
林の暗い小路に仁王立ち、
折柄通りかゝる味方の武士を呼びとめる
――ちよつくら待つてくれろ、
お前さま敵の首を獲つて来ただか、
武士は呼びとめられて
雑兵をじつと見すかしながら
――いかにも、首はとつて参つた
群がる敵陣にうつていり
当るを幸ひ切りまくり、
――当るを幸ひ切りまくり、
いくつ獲つて来ただ、
――一つ獲つて参つた、
――それでは、その首おれにくんろ、
――何と申す、無礼者、
――首渡さねば、お前さまの
首もちよつくらネヂ切るだに、
――これは無法な奴
おのれが敵陣にかけこんで
とつて参つたらよいに、
――そんな事、百も知つてるだ、
そんなら殺生嫌なこつた、
うぬら百姓の米喰つて腹減らして
首とつて嬉しがつてる
気がわからねいだ、
――こいつ、こいつ大胆不敵な奴、
――文句いはねいで首おいてゆけ
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