や、
――成程、
――大将は敵の首をたいへん所望ぢや、
――幾つ獲つて来たらいゝだ、
――いくつ、そりや多い方が機嫌がいゝ
 だが敵は素直に首は渡すまいぞ、
――成程
――なにが成程ぢや、
 てめいと話をしてゐると
 シンが疲れるわ、
 そうれ出陣に法螺の貝が鳴りをつたわい、
――ぢや、出かけべい、

小手をかざして見渡せば、
山野になびく旗幟、
白字に赤く、上り藤、下り藤、
また怒れる七面鳥、イタチの宙返りなど、
それそれ紋所に図案を凝したり、
旗幟どのやうに華美に
山野を飾らうとも
所詮、生命のやりとり場所、
人馬のいでたち美しければ美しいほど
たたかふものはメランコリイになる、
一日の戦が終つてホッと吐息をつく、
それぞれ収獲をたづさへてかへる、
首の土産のない者は
あの時、敵がヤッと叫んで切りつけたとき、
その時、ひらりと身共は一間程も飛び上つたり、
などと陣中自慢の手柄話は尽きない、

そこへひよつこり百姓雑兵
この度の戦にも十数個の
敵の首を提げてきて人々を驚ろかす、
所望とあれば
もつと持参致しませうかと、
いまにも駈けだしさうなので
大将まあまあ良いと
あきれて押しとど
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