、
武士は腹を立てゝ大刀抜き放し、
百姓雑兵に切りかゝると
雑兵は田舎仕込の太い腕で
松の木引つこぬいて
ぶんぶんふりまはして
武士を追ひつめ首を横取りしてしまふ、
こんな調子で味方の武士の
首を横取りしては済ました顔、
おのれの名誉のためにも
百姓雑兵に首を横取りされましたとも言へないので、
泣寝入りの武士が恨めしさうに
大将の前に雑兵の差出す首を
横眼でみてゐる、
いまでは陣中では
首の横取り百姓雑兵と
もつぱらの評判、
陣中では知らぬは大将ばかりなり、
百姓雑兵は、いつたい戦にかけて
強いのか弱いのか、
武士たちはいくら考へても判らない
百姓雑兵はいつものやうに
夢現つに銅鑼の声をきゝながら
次の戦にも林の叢で昼の間は寝てゐた、
そろそろ味方が首を獲つて帰る頃だと、
やをら立ちあがつて
辺りを見まはすと、
どうしたことだ、
戦場には味方の胴体ばかり
ごろごろ転がつてゐて、
その格好は
どれもあまり行儀がよくない、
味方は全滅
大将もとつくに首がない、
――いくさべイ終つただか、
それだば大将さまも
もう首いらねいだべ
やれやれ、村にけいつて
いもでも掘つくりかえすべいか
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