は待つ
素朴で激情的な
行為は讃へられよう、
死は前脚で
生は後脚
後脚はいつも
前脚にオベッカを使ふ、
このチンバの馬の
醜態のために
いたづらに土は荒らされる。
駿馬の闊達とした足なみの
美しい調和よ、
生死の感動の高まりのために
私は死の門を開放するだらう。



百姓雑兵


草原に鯨波《とき》の声はきこえてきた、
腸《はらわた》にひゞきわたる陣太鼓
他人の首を獲る
権利を与へられたる大軍こゝにあり、
緋おどしの鎧は華美と位階と
敵に対する威嚇とを兼ね備へ
トツトツと馬を陣頭にすゝめてゆく、
――もの共、続けやあ――、
と武士は大音声に呼ばはつたり、
『もの共続けやあ』といふ命令を
現代語に訳してみると
『物質共続けやあ』といふことになる、

すると物質共は、
わあ、わあ叫喚し
味方の大将を死なすなと
雑兵達争つて
敵方の陣に突込む、
――我こそは一番槍なり
――続いて太倉源五郎、二番槍なり、
――味方の大将こそは
 我が武勇の程を賞覧あれ、
『天晴れ、出かしたり、勇猛なり、』
みどりの草原に濛塵たち
オレンヂ色の夕映を背景にして
敵味方、真紅の血をながす、
自然も、旗も、人々
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