ットを探した
そこにはそれがあつた、
彼は己れのコメカミを射撃する、
その戸まどひは
愛すべきものだ、
人間的なこの男の真実は
決して右にも左にも
どちらのポケットにも無かつた、
真実はその中間にあつたのだ、
それは頭脳の位置にあつただらう、

私は死界から
濃藍色の生の世界を見透す
じつと諸君の傍の
赤いランプをみまもつてゐる
光りと生命の明滅を、
フッと光りは消された
暗黒の中に諸君と
私は何を待つてゐるのか、
知れたことだ、
灯を点じられることを待つてゐる、
時間の変化の中に
点じられない洋燈《ランプ》を
おくことは良くない、
生と死との瞬きの火、
近づき難いものに
近づくことのできる
最初の男達は
マッチのやうに燃え尽きるだらう、
そして完全に灯はともるだらう、
私は彼のために死の門を開かう、

死界へは生の感動を
土産にもつてきてくれ、
死んで世迷ひ言をいふ手輩は
死の門の鉄扉の前にいたづらに騒ぐ
脱落に生きて
物言ふものは
焦燥と無感動とに
もの言ふたびに己れの舌を噛む、
沈黙をしてゐる義務を
与へられてゐることを彼は知らないのだ、
美しい死者を迎へるために
門を化粧して私
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