生きた世界には
死の自由人が多い、
彼が死を怖れないことが
完全だといふ意味で
彼の自由であり
また無力であつた、
私はこの死の極左主義者のために
私の死の門を開いてやらない、
すべての自由とは
意識された必然ではないのか、
死も勿論生の感動に
答へるほどの高さになければ
君の人間としての
肉体は滅びて
一匹の蛆虫を生かすにすぎない、
君の考へは何処に生き
どこに記録されたか、
盲者よ、
君は幾人の
労働者をふるひたたせ、
コンニャク版で
幾枚の宣言を刷つたか、
幾度、幾本の橋を渡り
幾度女にふれたか、
公開し給へ、
君は死んでゐる
君は語ることができまい
君が意志を伝達したものが
それを後世に伝へるだけだ、
だが誰も証明し
伝達しない、
君の霊は迷ふだけだ、
狭い自己の必然性に
甘えて脱落し
死んでいつたものよ、
英雄らしく捕へられて
小人らしく獄舎に悩んだものよ、
なぜ逆でないのか、
小人らしく捕へられて
英雄的に死んでいつた
無数の謙遜な友を私は知つてゐる、
死の軽忽は責められない、
彼は追はれた、
右のポケットに手を突込んだ、
そこに短銃はなかつた
あわてゝ彼は左のポケ
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