。
機関士
そうだ死の平穏が――。
底には激しい動揺の苦痛が、
私はそれを怖れないだらう。
私は国境を守備するものだ。
同時に、国境を無視するものだ。
私は君とともに幾つでも国境を越えて行かう。
君は知つてゐるだらう、
ドン地方のコサック騎兵たちが
外国へ亡命したことを、
彼等は二十三人で合唱団をつくつた、
彼等はヨーロッパの街々を
オレグ公の歌や、
赤いサラファンの歌を、
今でもかなしげに歌ひ漂泊してゐる、
君と私も彼等のやうに
幾アルシンかの羅紗を二つに分けて
肩に背負つて港々を漂泊しよう、
ヨーロッパや東洋の人々はいふだらう。
あそこに祖国を失つたものが、
惨めな人間の見本があると、
それが真実だと――。
それは真実にはちがひない
ただ我々の真実であり
ソビヱットの真実の、全部ではないだらう。
操縦士
ドミトリーよ、
こゝはもう満洲国だよ、
光つてゐるのは、
興凱湖だらう、
私は理解しがたい君の愛情を乗せたまゝ、
私の白鳥は羽を湖の上に降さねばならない。
機関士
友よ、私に遠慮なしに湖に羽をおろせ、
私の愛は永遠にして
国境を越えることを恐れない、
曾つて古いロシアで
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