悪人に仕へてゐるのか。
私の頭は混乱し、
手はまるで意志に反したやうに、
しだいしだいに眼に見えない幻影に
押しやられるやうに、
南へ南へと舵をとり
あぶら汗をながしつゝ私は必死と《ママ》たたかひ、
北へ――北へ、と舵を向けるのに、
何といふことだ、
意志の気流は南へ――南へ、と流れた、
それが私の必然的な運命だ、
あゝ、だが私の座席の傍に
おそろしいものをみた、
ドミトリーよ、
それは君だつた、
君はなんといふ同志的な愛をもつて――。
鉄のやうな冷静さをもつて――。
たえず微笑しつゝ
私の脱走の為めの飛ぶが儘にまかしておくのだ、
君は私にかはつて操縦席に着かうともしない。
君は拳銃をもつて私を射殺しようともしない。
君はパラシュートで降りようともしない。
ドミトリーよ、
いま我々の飛行機はソビヱットを、
離れつゝある、
君は、早く君自身の処置をとつてくれ、
君は、君の愛するものを離れつゝある、
君はソビヱットを愛してゐるのか、
それとも愛してゐないのか、言へ。
機関士
私はソビヱットを愛してゐる、
そのためにこそ――。
私は私の愛する君と、行動を共にする。
雲の中に君は父親の幻
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