いて飛び上る
――いゝ、畜生
  こんな豚喰へるか、
  こんな豚喰へるか、
いやといふほど娘の横ツラを殴りつけ
恐怖にふるへる娘を尻目に
兵士たちはプリプリ怒つて集合する、
彼等は頭を痙攣のやうにたて横にふりながら
畜生、畜生とうなる、
ひしひしと迫る饑餓と疲労とに
――もう、この世に
  喰へるものといつたら
  何一つないんだ
彼等は心にかう思ひこんでしまつた
――中隊、前へ
――中隊、駈け足
兵士たちは理由のわからぬ憤怒が
しだいに波のやうに
高まりこみあげてきた、
敵が近づいてくるやうな予感が
一層この憤怒をけしかけた、
プラムバゴ中隊の兵卒は
中隊の列に野良犬が迷ひ込むと
スパリと剣で首を切り落す、
木の枝が足をすくつたといつては
畜生奴と切りつける、
走る中隊を追ひ風は助け、
中隊の後には
一群の植物プラムバゴも
ぞろぞろついてゆく、
唾を吐き、目をいからし、泣き、絶叫し、
沈黙し、走りながら小便し、
眠りながら怒号し、
砂地をすぎ、草原をすぎ、丘をすぎたとき
行手の銃声は豆を煎るやうに
益々はつきり聞えだし、
中隊長の顔は緊張し、
兵士は焼豚と蒙古娘をののしり、
草を剣
前へ 次へ
全68ページ中27ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小熊 秀雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング