どこの包へ押し入つた兵士もみつけた、
期せずして幕の蔭の可憐な******
奪り放題にとびかゝつた、
中隊の兵士の数だけ
娘の数がゐるとは
なんといふ神は公平なものだらう、
と彼等は心に思つた、
若し一人だけ娘の数が足りなかつたら、
きつと二人の兵士は決闘を始め、
どつちか一人が斬り殺されてゐただらう、
中隊長は笑ひながら全中隊の
兵士の行動を観察してゐる、
包の中で兵士はそれぞれ娘を押へつけた、
娘は悲鳴をあげて必死と抵抗し、
蒙古娘が力が強かつたし、
兵士は腹がペコペコで力が抜けてゐたから、
おかしなことには娘は跳ね起きて
どこの包の中でも兵士が娘に組みしかれた、
兵士は苦しまぎれに娘の手を引つ掻くと
――この助平兵隊奴、
娘は兵士の頭に拳骨を喰はせる、
兵士はたいへんな暇をかけて
やつとの思ひで娘を組みしいた、
――もう大丈夫だ、
  なんて気の荒い狼ムスメだらう、
組みしきながら右手で
やさしく娘の肩をたたきながら
左手でズボンの釦の数をかぞへてゐる、
兵士のズボンには、五つの釦
兵士はそれを四つはずした
五つ目の釦に指をかけたとき
――中隊、出発
中隊長の呶鳴り声
兵士は驚ろ
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