くり、
御叮嚀にも誰かゞ小便までひつかけた、
――中隊、駆け足
――飛行機より早く、
――悪魔のやうに飛べ、
兵士は走つた、
だが豚を前にして流したヨダレは
だらだらたれて十支里位停まらなかつた。
――中隊とまれ、
  向ふに白くテンテンと見えるのは
蒙古包だ、
あいつを襲へ、
喰ひたい放題、
見たい放題、
奪りたい放題、
飲みたい放題、
為たい放題、
  蒙古人のものはお前のものだ、
  お前達の好きな放題から選べ、
  あんまり慾張つても、時間がないぞ、
  すぐ出発だ、
  判つたか、そのつもりで、
  掠奪始めッ――。
プラムバゴ中隊は活気づき、
靴音は乱雑に駈け出す、
蒙古包の入口から荒々しく飛びこむ、
婆の悲鳴と、男の叱声、剣の音、
布を引き裂く音、鍋釜がぶつかる音、
あらい雑音が家の中からきこえてくる、
――何でも放題の中から
  まつ先に何を選ばうか、
  棚には食物がどつさりある
  高価な毛皮はとり放題、
  きよろ、きよろ、見廻せば見廻すほど
  決心がつかなくなる、
――あゝ、居た、居た、
  先づあいつから先だ、
幕の蔭に小さくなつて
ふるえてゐる蒙古娘を、

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