その時移民団の列から
眼にいつぱい涙をため
スウスウ鼻水を、すすりあげて
一歩前へ、のり出したのは
てめいも知つてゐる八公、あいつだつた、
――おゝ、旦那、わしは、いささか代表
  いたしまして、はい、左様でござります、
  へい、お有り難う御座ります。
あのウスノロ野郎、八公が
人前へ出て一席弁ずるとは思はれなかつたね、
おら驚ろいて、奴の顔を見たよ、
旦那も、上機嫌で移民団の徽章を
真先に八公の胸に着けたもんだ、
野郎すつかり面目玉をほどこして、
大きな図体ゆすつて
げらげら笑つて嬉しがつたね、
連絡船の中で
奴は、すつかり人気者になつた、
――諸君、いささか代表いたしまして、
  諸君は名誉であります、
などと船室に立ち上つて、しやべつたりした。
だが、手前も知つての通り
おれたちゴミ箱あさりの世界には
名誉なんて言葉は落つこちては居ねい、
そんなものは知らねいから
使つた事がねいや、
はばかりながら俺達は
世の中の為めに、唯の一度も
利益になつた、ためしが無いや、
働きたくなくて、
死にたくねいから、
腐つた林檎、トンカツのお余り、
里芋の切れつ端、何んでも食ふだけだ、
ルンペ
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