くり、
御叮嚀にも誰かゞ小便までひつかけた、
――中隊、駆け足
――飛行機より早く、
――悪魔のやうに飛べ、
兵士は走つた、
だが豚を前にして流したヨダレは
だらだらたれて十支里位停まらなかつた。
――中隊とまれ、
  向ふに白くテンテンと見えるのは
蒙古包だ、
あいつを襲へ、
喰ひたい放題、
見たい放題、
奪りたい放題、
飲みたい放題、
為たい放題、
  蒙古人のものはお前のものだ、
  お前達の好きな放題から選べ、
  あんまり慾張つても、時間がないぞ、
  すぐ出発だ、
  判つたか、そのつもりで、
  掠奪始めッ――。
プラムバゴ中隊は活気づき、
靴音は乱雑に駈け出す、
蒙古包の入口から荒々しく飛びこむ、
婆の悲鳴と、男の叱声、剣の音、
布を引き裂く音、鍋釜がぶつかる音、
あらい雑音が家の中からきこえてくる、
――何でも放題の中から
  まつ先に何を選ばうか、
  棚には食物がどつさりある
  高価な毛皮はとり放題、
  きよろ、きよろ、見廻せば見廻すほど
  決心がつかなくなる、
――あゝ、居た、居た、
  先づあいつから先だ、
幕の蔭に小さくなつて
ふるえてゐる蒙古娘を、
どこの包へ押し入つた兵士もみつけた、
期せずして幕の蔭の可憐な******
奪り放題にとびかゝつた、
中隊の兵士の数だけ
娘の数がゐるとは
なんといふ神は公平なものだらう、
と彼等は心に思つた、
若し一人だけ娘の数が足りなかつたら、
きつと二人の兵士は決闘を始め、
どつちか一人が斬り殺されてゐただらう、
中隊長は笑ひながら全中隊の
兵士の行動を観察してゐる、
包の中で兵士はそれぞれ娘を押へつけた、
娘は悲鳴をあげて必死と抵抗し、
蒙古娘が力が強かつたし、
兵士は腹がペコペコで力が抜けてゐたから、
おかしなことには娘は跳ね起きて
どこの包の中でも兵士が娘に組みしかれた、
兵士は苦しまぎれに娘の手を引つ掻くと
――この助平兵隊奴、
娘は兵士の頭に拳骨を喰はせる、
兵士はたいへんな暇をかけて
やつとの思ひで娘を組みしいた、
――もう大丈夫だ、
  なんて気の荒い狼ムスメだらう、
組みしきながら右手で
やさしく娘の肩をたたきながら
左手でズボンの釦の数をかぞへてゐる、
兵士のズボンには、五つの釦
兵士はそれを四つはずした
五つ目の釦に指をかけたとき
――中隊、出発
中隊長の呶鳴り声
兵士は驚ろ
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