前の世界へ行かう。
あらゆる人間の言葉を
忘れてしまひにお前に尾《つ》いてゆかう、
そこではあらゆる激越な正義的な、
公然たる主張をゆるされるところ
すばらしいかな、
お前の国のお前の言葉を私は理解した、
私はお前のやうに歌はう、
曾つて人間界で使つたことのないやうな
独創的な言葉をもつて歌ふために
人間の世界に帰つて来よう、
そこでは私の歌が
何の内容もないといふ批評を受取りに、
そしてお前のやうに
人々の窓を片つ端から覗きあるかう、
ウルシのやうに黒い、
ただそのことだけで私は沢山だ、
光沢のある羽を見せびらかすだけで沢山だ、
鳥よ、
あいつらはお前や私のやうな
光沢をもつてゐない人種だ、
灰色の外套を着て、
灰色の帽子をかぶつて、
灰色の町へ遊びにでかける、
灰色の議論をして、
灰色のベッドに潜り込む、
彼等は色彩のついた夢をみる本能も
力量ももつてゐない、
彼等はだんだんと
精神の痴愚の世界へと
ずるずると陥ちこんでゆく
鳥よ、
お前と私とは単純な不吉な、
理解されない叫びをあげつゝ
彼等の死を祝ふさ、
歌へ、
巨大なわが精神の羽ばたきよ、心臓よ、
お前醜い鳥よ、
光沢のある歌
前へ 次へ
全37ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小熊 秀雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング