紗のウスモノを着せたり
鉄のヨロヒを着せたり忙がしい、
猛る観客のために
舞台には奔馬をひきだす、
血を欲する観客のために
私はほんとうに血を流してみせねばならぬ、
観客よ、
私にほんとうに死ねといふのか、
――あいつは変な存在だし
  足手まといな三文役者だ、
  とつとと血を流せ
と君は言ふのか、
まてしばし
わが友よ、民衆よ、
私の詩人にいま暫らく
生き永らへさせよ、
私をして焔[#「焔」の火へんを炎にしたうえで、へんとつくりをいれかえた字、焔の正字と同字]のセリフを
舞台から吐かせろ――。
いまや私は決闘の時間だ、
私に悠々閑々たる
たたかひの時間を与へよ、
いまや私は食事の時間だ、
舞台の上のレストランだ、
ビールはほんものだし、
ブクブク泡の立つた奴だ、
私はこいつをグイとひつかけて
幾分酔ふ、
滑稽なコロッケに
憂鬱なソースをかけて喰ふ
私の演技の
こまかいところを買つてくれよ。


ウラルの狼の直系として
  ――自由詩型否定論者に与ふ――

お前詩人よ
己れの才能に就いての
おもひあがり共よ
天才主義者よ
腹いつぱい糞尿のつまつて立つた胴体よ、
君等の詩は立派すぎる

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