うたひよ、
お前と私とは運命の予言者であり、
傍観者であること恥ぢない、
宇宙の二つの幸福
地球は母であり、
母のふところよ、
インテリゲンチャよ、
だが君は真の母の愛を知らない、
自分で子守歌をうたひ、
自分でスヤスヤと眠つてゐる、
世話のいらない
お前インテリゲンチャよ、
あゝ、お前は何か悪い夢を見たのか、
何をしくしく泣いてゐるのだ、
労働者たちは仕事場で
鉄に一つの打撃を喰らはした
そのときケチな悲しみは飛んでしまつた、
綿々としてつきない
インテリゲンチャの苦痛の声に
労働者たちはただ苦々しさと
軽い嫉妬を感じてゐるだらう、
――全く君等は幸福な奴等だと、
宇宙には今たつた二つの
幸福だけが残つた
一つは君等の『泣いてゐる時間』と
地球の外から
二つの階級の争ひを見物してゐる星と、
そしてインテリゲンチャ達は
涙で光つた眼をして星をみあげ
ボードレール風に歌ふだらう
――ある夕べ、われ星に云へり
汝ら幸ひに見えじ、と
あらゆるものを否定し去つて
その跳《は》ねかへりの苦しみを
背負こんで泣いたらいゝ、
人間が生きるかぎり
夢はつづくから、
夢の断たれる日まで
幸福に泣いてゐたらいゝ、
君の心臓に風邪をひかせろ
手を拡げて立つてみろ
君はまるで
聖十字架そつくりぢやないか、
宿命論者臭く
ものおもひに沈んでゐる
智識階級は一米突実現をあるいた、
労働階級が十米突歩るく間に、
植物的諦《あきら》めの若さは
東洋的若さだ、
私は動物的若さをもつて
喰らひ、遊び、労働し、恋し、
そして闘ふ、
君も恋し給へ、
心臓が強くなるよ、
シャンと頭をあげて路をゆく
習慣もつけたまい、
市街戦の敵は高い窓にもゐる、
バルザック風に堂々と肩をそびやかし、
バイロンのやうに火薬をもてあそべ、
ロダンのやうに軽々と女をもちあげよ、
あらゆる動物的
あくどさのために友よ、乾杯しよう、
トルコ風呂の湯気の中の
ブルジョアジイ、
溶鉱炉の傍のプロレタリアート、
労働者のやうに
動物的に肉体を酷使できる
インテリゲンチャがゐるとすれば偉い、
これらのインテリも稀《まれ》にゐる、
だが多くは労働者への
秋波《ながしめ》で一生を終り
自分で気が済んで死んでゆく、
怖るべき
軽蔑すべき
階級的良心の合理化よ、
真に労働としての
智識の行動化のために
もつとも完全なインテリ的であれ、
真綿でくるんだ
君の心臓に風邪をひかせろ、
歯をもつて雷管を噛め、
そして思想を爆発させろ、
政治と文学
私は私の従順性を単純にうけいれて
くれる理想の時代がやつてきたら
私はあらゆるものに
屈服しても後悔しないだらう、
だが今はさうはいかない、
愚劣な政治性が
いかに世間に横行してゐるか、
そしてこれは
作家の単純さや素朴さ
従順さを音を立てゝ喰つてしまふ、
そして口を拭つていふ
――この作品は案外うまくなかつた――と、
しかも喰はれる鼠は
死を前にしてながいこと
惨酷に猫のために玩具《おもちや》にされた、
私の従順性は
けつして軽忽に政治に引渡さない、
あらゆるものが今一人として
政治的に武装されてゐないものがない、
愛されること――、
それは決してこびることでない、
政治と文学に就いて
我々はもつとたがひに反撥する
正しい理由をみつけださう、
――政治に可愛がられる文学
とんでもない話だ、
作品の社会性の点検
まづそれを自分一人でやつてのけよ、
それこそ政治性との無言の一致だ、
それで結構だ、
単なる政治はまだ私の詩より汚ない、
政治も文学も
今は一つの桶に入つてゐる
二つの汚れものだ、
クリーニング屋は
まだ開業わずか一年だ。
詩からの逃亡者に与ふ
詩作からの逃亡者が
今日、詩から――評論へ、
詩から――小唄作りに逃げてゆく、
賢明なものは無言で
そして謙遜に去つてゆく
愚劣なものは言ふ
――三十にして詩を書いてゐる
奴のツラがみたい、と
み給へ、なんと濛々とたちあがる
詩からの逃亡者の詩の罵倒を、
彼等がかつて詩を書いたこと
それは若さの出来心であつた、
生殖器が元気のよい間だけ
彼の詩は幾分ピンと立つてゐた、
だがどうだ、今ではもう
自分で自分の品物をもち扱ひかねてゐる、
そして彼は詩に失望し始めた
彼の生活へ通俗的なシタタリが落ちてきたとき、
彼は前足を散文にひつかけた、
後足は詩に残つてゐた、
そしてやがて彼にとつて混沌たるドブを
身ぶりたつぷりで越えた、
跳ねこえるとき彼は後足で砂を
我々の顔にかけた、
そして逃亡者は言ひ合はしたやうに
逃亡の理由をいふ
――詩ではとても飯が喰へない、と
彼等は何故もつと正直に言へないのだらう、
――詩は若さの過失であつた、と
舌へ労働を命ず
太陽の直射の中にたたずんで
朝は、歌うたひ
昼は、
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