飯くひ
あゝ、夜は眠る然も熟睡である
プロレタリアートの
薔薇をどこに紛失したか
君は知つてゐるか、
それは小鳥が咬へて行つたか
誰かが盗んだか、
いづれも正しい、
労働への感動は失はれた
お前の花はそのためにしぼんだ、
とり戻せ
プロレタリアートは
あらゆる薔薇を、
美しいものを
労働の中から発見せよ、
あゝ、私は歯をむき出して
ものをしやべる人種である
その美しさを誰が知らう、
口をつむんだお上品な方々には
私の素直さはお嫌ひだ
ばくはつする口の労働
舌の早さよ、
考へてゐることは即ち
しやべつてゐることと同じだ、
しやべつてゐることは
勿論――考へてゐることだらう、
私はその方法を採る、
私の詩は尖塔《せんとう》にひつかゝつた
月のやうに危なかしいものではない
夜ふけて、月がまはれば
尖塔もぐるぐるまはる、
そして朝には離ればなれになつてしまふ、
私の詩は空を掃く
嵐のホーキか、
唾液ですべる私の舌は
機械油で滑る車輪のやうに労働する。


春は青年の体内から

永遠に歌ひ継《つ》げ
我等の歌をもつて
夜から暁へのリレー
死ぬものから――生きるものへ
バトンを手渡せ
だまるな、饒舌《ぢやうぜつ》をもつて
敵を圧倒せよ、
牡丹のやうに美しく咲いて
美しく散れ
いゝ加減、政治上の敗北に
のたうち廻ることを
インテリゲンチャに贈呈しろ
過去は過去のみ何ものにも非ざるぞ――。
苦痛に就いては
我等に偉大なる忘却の精神がある、
おゝ、青年よ、
平然と過失を
犯すことは青年の権利だ、
われらは過失を目標としてゐない、
だが過失を怖れては
何事も為し得ないだらう、
再び握れ、熱いものを、
春は青年の体内から――、
氷の中に閉ぢこめられるな
べんべんと季節の
やつてくるのを待つな、
精神の春をもつて
季節の春を迎へ撃て、
いつまでも君は
政治と文学との問題で
待合風にイチャツイテゐるのだ、
いつまでも母親を失つた
児のやうにひがむな
君は君の頭の中に
組織委員会をつくつたらいゝ、
プロレタリアの運命よ、
ひしとお前の寄り添ふときに
恋人のやうに愛することができる、
だがとほく離れてみるとき
お前はみじめだ、
あゝ、若さの情熱のために
われらは、われらの運命を
手離すことができない、


火花のやうに稼ぎださう

友よ、私が愚劣な人間であるか、
賢明な人間であるか証明してくれ、
私はわからない、
何んにも知らない、
私はそろそろ憎まれだした
私が歓呼をあげるが、
誰も歓呼をあげない、
私は勝利をみた、
だが君は何処にも勝利をみないといふ、
私はそれでは夢をみたのだらうか、
君が敗北の現実をみてゐる時間に
私が勝利の夢をみてゐるといふのか君よ、
そして君は憎しみの鍬で
私のところの煉瓦を砕きにやつてくる
私の粗暴な愛は愛ではないのか、
感動は疲労しない、
そして私は火のやうに稼ぎだす
それは空騒ぎではなく
鬱積されたものを
相手の顔の上へ嘔吐するのだ、
怒りの情熱は
いつの場合も空つぽの顔《ママ》を充実させる、
才能の最後の一滴の
したたりをもだし切ることができるだらう、
忘れてゐた言葉、
それは一ぺんに召喚される
憤れ、理由を押したてゝ、
自由に憤るもの、
それは良い旗手だ、
巧者な闘ひ手だ、

君よ獲物を
とらへたときの、蜘蛛の
情熱を想像し給へ、
あのやうに言葉の綾をもつて
敵を捉へなければならない、
針を立てないハリネヅミ
鳴りださないガラガラ蛇、
これらの同居人は
闘ひのアパートから追ひ出してしまへ、
攻勢にでないもの、
それは無用の長物だ。


空騒ぎではなく

我等はこの情熱に
歌うたはせねばならない、
けふ私の頭は空つぽになつてゐた
しかし私は才能を信ずる
私は決して絶望しない、
私はいつも分相応な
憤怒の対象をみつけるから、
弱きものよ、
君も、いゝ憤りを発見したまへ、
すると君はいつぺんに
怒る男性がいかに
美しいかといふことを経験するだらう、
それはほんとうに立派だ、
試みに愛するものに
適宜に怒つて見給へ、
君は一層彼女に慕はれるだらう、
憤れよ、
金属性の時計に
私の心臓は激しく対立する
そして私は勝手に私の心臓に
時の目もりする
二十四時間ではない
はかり知れない時の目盛りを、
われわれは
我々の時間を充実して頑固でありたい、
私は愚劣さの火花を散らしながら
愚直に行動
することが一番好きだ、
君はそれに眼をそむけてゐた、
だがたまり兼ねて憎みだした、
私は勝利の盲信者であつてもいゝ、
私を変質者とみても構はない。


不謹慎であれ

わたしがはげしい憤りに
みぶるひを始めるとき
それは『あらゆる自由』
獲得の征途にのぼつたときだ、
その時、私は不謹慎でなければならない、
不徳でも
また貪慾でもなければならぬ、

前へ 次へ
全10ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小熊 秀雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング