るために――と
私にむかつて牛は優しく元気づけてくれた、
私は感動をもつて、この永遠の乳房に取つつき、
熱意と、熟練とを確信し
はげしくとばしり出る甘いものを
我々のための我々の乳をしぼり始めた、
かつて苦痛であつた仕事が
このやうに喜びをもつて為されるといふことは
ただ、あやまちに乳をもつて
眼を洗つたためだけでは無いであらう、
それは私がこれまで余りに生活の
小さな影に居たからだ、
運命が私に乳をしぼらせてゐたからだ、
いつも乳をしぼる私は
牛の体が太陽の光りをさへぎつてゐたから、
現実とは――牛のやうに何時も
悲鳴をあげてゐるものと考へ込んでゐたから、
晴々とした、宇宙の中の牛よ、
私の乳しぼりよ、
眼をあげよう、
若者よ、
確信をもつて現実からしぼらう、
――今日もしぼらう、
明日もしぼらう、
我々の為めの我々の乳を――
きのふは嵐けふは晴天
広野を
嵐と好天気とは
スクラムを組んで
この二つのものは一散に
南から北へ向けて走つて行つた
これを指して
人々は気まぐれな奴等だと批評する、
嵐と好天気――
およそ一寸考へると仲の悪さうな奴
私はさうは思はない
私はその
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