まり
ニュームの容器を
腹の下に置いてしぼりだすと
乳は容器を鳴らして雨のやうな音をたてた、
最初は、タンタラ、タンタラと小雨のやうに、
やがては嵐のやうに――。
私は職業を恥ぢた、
生活とはこのやうなものか、
現実の乳しぼりとは、このやうなものか、
お前の暗黒の体内から
白い甘いものをしぼり
出さなければならないかと
ながいこと、私は自分の仕事に苦しんだ、
ある時、私はお前のとばしり出る乳を
顔にかけられて
私は乳をもつて眼を洗つた、
すると私の眼はパッチリと冴え
一切の周囲が
思ひがけない喜びに満ちた世界に見えた、
私は驚ろき太陽は燃えたち、
草はまつすぐに、生気があり、
雲雀は歓喜の歌をうたひ、
其処には宿命的なものは一つもなかつた、
曾つて卑しい苦痛の生活と思つた
乳しぼりの友達は
喜びをもつて、牧舎から出てきて
日課を完うしてゐた、
板囲ひを修繕してゐる大工も
牧場の路をつくつてゐる土工も
すべての労働者は元気があつた、
しかも牛達の声は高く
その大きな乳房を露出《むきだ》して
――今日もしぼれ、
明日もしぼれ、
あさつてもしぼれ、
私は草を食はう
乳を貯へ
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