となるために
私の仕事は「発見」あるのみだ、
生きた人間が
最大の声をあげて
苦悶を訴へてゐるときに
優しく肩を叩いて慰めてやる前に
大きな手で口をふさいで
やるなどといふことが出来るだらうか、
友の苦痛の深さに答へるために
友の苦痛に負けない
歓びの歌を私は歌ふために努力しよう、
私は英雄でない
私は民衆の指導者ではない、
私はあらゆるものの教師となることが大嫌ひだ、
私はうぬぼれない、
私は憎むべきものと争ふ
若干の力のあることを信ずるだけだ、
友よ、
苦しめ、君は私の
親しい合唱《コーラス》として、


怒り虫として

愚劣で
なんの主張もないやうな
君の唇は噛み切つてしまへ
沈黙は怖ろしい
忘却は恐怖そのものだ、
私は嘆息するとき
肉体が衰へてしまふほど
ながいながい間、
咽喉は汽笛を鳴らしてゐる
私は怒り虫として
毎日、毎日新らしい遺言を書き続けてゐる、
憤怒は実に嬉しいものだ、
民衆は漬物桶の中にゐる
重石《おもし》で圧迫されてゐる、
うまい具合に醗酵してゐる、
私の心臓もナスビのやうに
うまい具合に漬かつてゐる
良い味のある歌をうたふのだ。


伴奏曲

静かな良い夜に

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