ために
君の妄想の小屋から出てゆく
そして路をゆく
私は右足と左足とを
かはりがはり単純に繰り返しつつ――。
私の旅立ちの愚劣さを
君に軽蔑されながら私は歩るいてゆく、
それで構はない
さまざまなところで夜となると眠る、
さまざまな夢をみて
そして圧倒的な強烈な光りを
周囲に投げかけて太陽が
のぼつたとき私は床を離れる、
私は太陽や、麦の匂ひや、
ザクロの赤さや、若い馬を
非難する言葉を知つてゐないから
君のやうに敗北の歌にこれらの物を
たたきこむ言葉をもつてゐないから――、
君が己れの敗北を肯定するやうに
これらのものの健康さを私は肯定する、
君の眼から私はいつも
苦痛を知らない
喜劇的な無智な男にみえるだらう。


空の青さと雲の白さのために歌ふ

空はあくまで青く、
雲はあくまで白く、
私達のために
私達の眼のとどく限り空は展開されてゐた、
ハムレットのセリフではないが
クジラのやうな雲の形は
見る見るラクダのやうに形を変へてゆく。
私はこの自由に移りかはる雲を
引きもどす何の神通力をもつてゐない
だが私の眼は
その雲をどこまでも何処までもと
追つてゆく力がある、

いま世界で

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