なく稲のピラミッドの中に彼はもぐりこむ
――おまへは夕べ、何処へ泊つただ。
――あゝ、わしは
友達のあつたけい、寝床へ寝ただよ。
母と子はたがひに案じ合ふ、
母はこゝろの中でおどろいてゐる、
息子が村の若者をみんな引きつけてゐるといふことを。
海にむかつて、まるで日蓮さまがやつたやうに
しきりに何か叫んでゐる息子を。
稲積みの中に寝て家に帰つてこない日のあることを。
ちかごろ鉄砲のやうに続けさまに
苦しさうな咳をしだしたことを。
**がしきりに息子の後をつけ廻してゐることを。
薔薇色の空は
ある日この青年にとつて砕けて見えた、
――おつ母あ
ワシは長いきをしたいよ!。
かうしんみりと語つたのは昨日《きのふ》のことだつた。
ところがその翌る日
座つてゐた彼は急に咳を一つした、
――おつ母あ、
もうオレは駄目だ。
かう彼は早口に言つた、
そしてスウと屏風のやうに
後に静かに倒れてそれつきりだつた。
母親にとつては
なんとアッケない息子の生涯だつたらう。
自分のそばを離さず、
せめても夢だけでもゆつくりと、
色々と見せてから殺したかつた。
だがほんとうにこの若者は、
少しも母のそば
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