、
勇気よ、
蒼空の青と、海の青との接触、
そこに一個の人間が手をひろげて立つてゐる。
このみすぼらしい海《ママ》村の日本海に面した
崖のとつぱなに出て
この若者は何をしようとするのだらう、
若者は崖から海にむかつて叫ぶのだ
――農民諸君
われわれ百姓は――と。
どうしてこの若者を
単なるロマンチックと解し
英雄的行為だと言へようか、
沖にむかつて農民諸君と叫ぶとき、
魚たちは、けげんな顔をして、
波間から若者の様子を見てゐただらう。
陸には青年の叫び、
海ではフカが小魚をおどろかして通る、
雲の交叉、
そのスキ間から朝陽が勇躍し
ヌッと太くたくましい光つた片腕を突出し、
村の一角を赤い彩りをもつて捉へる、
曠野には馬が放された、
風はその馬のたてがみを吹きなびかせる、
風よ、
お前は馬にとつては、よき調髪師だ。
若者は毎朝日課のやうに海にむかつて
農民諸君と叫ぶ
それからくるりと踵《きびす》をかへして
農民組合の事務所へゆく、
ねつつこい、たゝかひを開く為めに赴く、
仕事が終へるとこの若者は寝にかへる、
稲が小山のやうに積まれた
その下に立つてゐる
この稲は彼のベッドだ、
間も
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