だつて私の白い前垂に、
火がとびうつるんだ、
私は火達磨になつて死ぬ覚悟を決めたよ、
ねえ君、現実といふところは、
なんて辷るところだらうね、
すつかり建物も街路も油がしみきつてゐて、
てらてら光つてゐるし、
いたるところでは火を呼んでゐるよ、
――煙草を吸ふべからずだよ、
内証で吸ふ煙草の味のうまさはこたへられないね、
子々孫々へ伝へていゝね、
いゝ職業だよ料理人は、
可愛い奴だよ、フライパンは、
ポンと肉をほうりこんで、
ヂュといはせる、
堅けりや喰はないし、
柔らかけりや駄目だし、
半熟は総じて、お客の口に合ふよ、
歯で噛むと血がにじみでる位が、
肉を揚げては上々だよ、
わが友、
コックよ、
み給へお客の何と殺到することよ、
君も火達磨になるつもりで能率をあげ給へ、
鉢巻をし直し給へ、
繩ダスキをやり給へ、
お客はみんな若いんだ、
若い歯なんだよ、
頼むよ、柔らかい肉をね、
あんまり堅いんぢや、
当世喜ばれないよ、
大切にしたまへ、
君の主人公ではなくて、
君のお得意をさ――。
農民組合の一員の死
――同志の霊に捧ぐ――
若者は崖の上に立つてゐる
新しいロマンチズムよ
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