にじつとしてゐなかつた、
僅かな瞬間に、わずかな夢より
見るひまがない程に、彼は忙しかつた、
稲の中で眠つて彼は永遠をとらへた夢を見た、
しかも彼は貧しい村の永遠を捉へた、

彼の死をかなしむ若い会葬者たちは、
母親の知らない唱歌をうたつて長い行列をつくつた、
母親はそして心からかう思つた。
この村の若い衆たちは、
肉親のわしよりも
息子の死んだことを何倍も
悲しんでゐるやうだと――。


気取り屋に与ふ

私は誇る
私が詩人であることを、
私がいちばん高い位置にあることを、
高さとは――私自身に犠牲を
要求する心理の階段の高さをいふ。
気取り屋よ、
君のツラへ
私は率直な鉄丸をぶつつけてやらう
君の仮面が砕けて
下から真物のツラが現れるやうに、
我々はもつと憎まれる必要があるのだ――、
十万の味方をつくるために
どうして我々は千の敵をつくることを
怖れてゐられるだらう。

したたるやうな水蜜桃よ、
甘い苺よ、
葡萄よ、
あらゆる果実を樽にぶちこんで
感情のジャムをつくり
虚偽者の頭へ投げつけてやらう、
詩人の攻撃とは
如何に複雑な味があるかを知らしてやれ、
野良犬のために路を譲る

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