をぬすんで
こ奴を血にいつたん潜らせる。
宗教をぬすんで
こいつだけは只でくれても
我々の世界では貰ひ手がない。

わが友よ、
戦へ、
敵のもちものは豊富だぞ――、
ぬすめ、
それぞれ大泥棒の襟度を現はせよ、
仔馬の集団、
赤きわが遠征隊、
捕吏の追跡、
閃めくカギ繩マントでうけよ、
マントが脱げたら
上着でうけよ、
上着がぬげたら素裸だ、
鞍が落ちたら
裸馬だ。
すべて我々は
赤裸々にかぎる、
行手は嵐、
着衣は無用だ、
裸のまゝ乗り入れよ。
裸の詩をうたへよ。
わが大泥棒の詩人たちよ。


ゴオルドラッシュ

とんでもない話が、
北から舞ひこんできただ、
お前さんグズグズするな、
そこいら辺にあるロクでもねいものは、
みんなほうり投げて出かけべい。
家にも、畑にも別れべい、
いまさら未練がましく
縁の下なんかのぞくでねいぞ。
どうせ不景気つづきで此処まで来ただ、
札束、縁の下に隠してあるわけなかべ。
餓鬼を学校さ、迎へに行つてこいよ、
授業中であらうが
かまふもんか引つぱつて来い。
若し先生が文句、云つたら
かまふもんかどやシつけて来い
――まだ授業料、収めねい餓鬼は手を挙げろ! と
 ぬかしくさつた
地主の下働き奴が
貧乏なわし等の餓鬼つかまへて
雀の子ぢや、あんめいし
今更チウでもコウでもねいもんだ。

さあ、餓鬼にもスコップ持たして
河の中、ホックリ返へさせるだに。
手といつたら猫の手でも借りたい
砂金掘りだに――。
わしの餓鬼をわしが連れて行くだに、
明日は村ぢうの餓鬼は一人も
学校さ、行かねいだらうと、云つて来い、
何をあわてて、カカア脚絆裏返しにはくだ。
わしも六十になつて
今更、山を七つも越して行き度くねいだが、
ヅングリ、ムックリ、ろくに口も利かねいで、
百姓は百姓らしくと思ひこんで、
あれもハイ、これもハイと、
お上の、おつしやる通り貧乏してきただ
山を七つ越せば、
キラキラ、金がみつかるとは――、
何たるこつちや、今時、冥利《みやうり》がつきる
やい、ウヌは何をぼんやり
気抜けのやうに立つてけつかる、
その繩を、こつちの袋に入れるだ。
唐鍬を入れたら砥石を忘れるなよ。

これ以上、貧乏する根気が無うなつたわい、
破れかぶれで、この爺が山越えする気持は、
村の衆の誰の気持とも同じだべ、
やあ、やあ、空がカッと明るくなつたわ、
未練がましい家へ火
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