だらうか、
若い馬よ。
少年よ、
私はお前の爪に
真赤にやけた鉄の靴をはかせよう。
そしてわたしは働き歌をうたひながら、
――辛抱しておくれ、
すぐその鉄は冷えて
お前の足のものになるだらう、
お前の爪の鎧になるだらう、
お前はもうどんな茨の上でも
石ころ路でも
どんどんと駈け廻れるだらうと――、
私はお前を慰めながら
トッテンカンと蹄鉄うち。
あゝ、わが馬よ、
友達よ、
私の歌をよつく耳傾けてきいてくれ。
私の歌はぞんざいだらう、
私の歌は甘くないだらう、
お前の苦痛に答へるために、
私の歌は
苦しみの歌だ。
焼けた蹄鉄を
お前の生きた爪に
当てがつた瞬間の煙のやうにも、
私の歌は
灰色に立ちあがる歌だ。
強くなつてくれよ、
私の友よ、
青年よ、
私の赤い焔[#焔の火へんを炎にしたうえで、へんとつくりをいれかえた字、焔の正字と同字]《ほのほ》を
君の四つ足は受取れ、
そして君は、けはしい岩山を
その強い足をもつて砕いてのぼれ、
トッテンカンの蹄鉄うち、
うたれるもの、うつもの、
お前と私とは兄弟だ、
共に同じ現実の苦しみにある。
馬上の詩
わが大泥棒のために
投繩を投げよ
わが意志は静かに立つ
その意志を捕へてみよ。
その意志はそこに
そこではなく此処に
いや其処ではなくあすこに
おゝ検事よ、捕吏よ、
戸まどひせよ。
八つ股の袖ガラミ捕物道具を、
そのトゲだらけのものを
わが肉体にうちこめ
私は肉を裂いてもまんまと逃げ去るだらう。
仔馬、たてがみもまだ生えた許り、
可愛い奴に私はまたがる、
私の唯一の乗物、
そいつを乗り廻す途中には
いかに大泥棒といへども
風邪もひけば
女にもほれる、
酒ものめば、
昼寝もする、
すべてが人間なみの生活をする。
ただ私の大泥棒の仕事は
馬上で詩をつくること、
先駆を承はること、
前衛たること、
勇気を現はすことにつきる。
私が馬上にあつて
詩をうたへば――。
あゝその詩は
金持の世界から何者かをぬすむ、
まづ奴等の背骨をぬすむ
奴等がぐにや/\に腰がくだけてしまふやうに
それから歴史を盗む、
そしてこつちの帳面にかきかへてしまふ、
それから婦人を盗む、
こいつはたまらない獲り物だ。
偶然をぬすんで必然の袋へ、
学者をぬすんで
我々の記録をつくつて貰ふ、
少女をぬすんで
我々の仲間のお嫁さんに、
国家
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