不満よ、
そのハケ口をどこにみつけようか、
それとも不平不満を
そのまゝじつと堪へて時間を喰ふか
それは良くない、
おとなしい人々よ、
不平を処理する方法は
七転八倒の苦しみの中から
引き出し給へ、
温順な人、
それは味方にも可愛がられる
そして敵にも愛される、
まあ、言はゞ階級闘争の
男メカケのやうなものだ、
私はさうしたおとなしさを軽蔑する。
数十万年目に相逢ふ月と星とに就いて
私はうつむいてあるく、
何を考へて歩るくと君はおもふ、
それはさまざまのことである、
つまらぬ出来事についても
たとへばユズの匂ひで濛々と部屋中を
とぢこめた銭湯に入つたことを考へながらあるく。
それから綿にアルコールをつけて
死んだ友だちの顔をふいてやつた時の
ことを考へてあるく、
じつと地面をみつめてあるく。
私はものの観方を決して浅いとは思つてゐない、
もし私の視線が鉄の棒か、鋤《すき》であつたら、
二度とふたたび私の通つた後を
通ることができないほど
地面は私の視線で掘つくりかへされてゐるだらう
憎しみをもつて、あいつを見る、
あいつはその場で死ぬだらう。
私はいつものやうに
下うつむいて夜の街を通つた、
すると私とはアベコベに空を仰ぐ
ものものしい様子の大人や
子供の一団がゐるのに気がついた、
それは何かしら異常な出来事を好む人々が、
好んで立つ何時もの十字路であつた、
とほくに火事でもあるのか、
私は思はず人々のするやうに空を仰いでみた、
そこに不思議なものを見た、
空には何があつたか、
――それは親密な奴等のしやれた立話であつた。
そいつらは空でキラキラ光つて
いささか得意気にも見え
非常にひろい空間に
鷹揚に自分達の位置を占めてゐた、
それは一つの上向いた三ケ月様と、
その下にするどく光る金星と、
月の上部にはニブク光つてゐる土星であつた。
――近星《ちかぼし》は人死にがありますよ、
老人らしいのがこんなことをしやべつてゐた、
――今夜の月と星とは
数十万年目に一度出逢つたんださうですよ。
その日の朝刊で知つて
誰やらがかう興奮しながらしやべつた、
みるみるうちに金星は
月の周囲をめぐりだした。
私は星の実在と
星が人間に与へる影響に就いて考へながら、
またしてもうつむきながら歩るきだした、
そして私はかう考へた、
あの黒い空に天文学者たちは
白いチョー
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