れ。
俺たちは決してお前を天上の物とは見ない。
それは何時でも俺たちの
激しい闘争の頭上に
お前を認めることが出来るからだ。
    *  *  *
雲は俺たちの味方だ
晴れた日、彼はじつと動かないが
少しも滞つてゐるものでないことを知つてゐる。
じつと見つめると彼は
明日の低気圧と合するために
実に激しく動いてゐることを。


母親は息子の手を

冷血漢のやうに
ものを言はしてくれ。
俺は母親といふものを知らない、
どういふ形をしたもので
どういふ風に、息子を愛するかを。
母の愛情に対して
息子はどう答へ可きかを。

俺の母は咳きこみ
咽喉をゴックリと言はし
枕元のコップに八分目程、
鮮紅色の、この世に これ程、
鮮かな色がないと思はれる程の色素を吐いた。
四歳の俺は素早くこれを見つけ
誰彼のみさかひなく
『母ちやんは、赤いものを吐いたんだ――。』
と吹聴すれば
父は怖ろしい眼をして
グッと俺を睨まへたらう。
いま全く俺には当時の記憶がない。

かなり俺が成長してまで
父は口癖のやうにかう述懐した。
『あの時、金さへあれば
 お前の母親を殺さなくても済んだ――』と
こいつは父の素晴ら
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