たつた二人で日本の憂愁を見に
遠くの山の麓に行かう
折り重なつた緻密な樹の下に
じつとかがまつて語り合はう
貴女はたいへん淡白な恋心をもつていらつしやる
たゞながい間手を握り合つて
丁寧にお低頭をして別れてしまふ
なんといふ潔癖なあなたよ
どんどんと鳴つて霧が降りてきて
貴女の友禅模様のハッピーコートは濡れた
そして貴女の美しい肉体の眼が
萱の茎の中に隠れてしまつた
この世界には幻惑がない
霧の中の貴女の美の喪失であつた
私は痛い、私は追つて行かう
いつそ石の燈籠になつてしまひたい
私はいつも東洋を信ずる
たゞ私は恋を失つたときだけ心から東洋の滅亡を考へてみる
低気圧へ
争議に依つて
俺たちの職場はわきたつ
『同志、ズボンの釦がはずれてゐるぞ。』
『おーらい、おゝそして君の帽子もゆがんでゐるぞ。』
『おーらい。』
俺たちは微細なものに対しても
細心に注意し合ふ。
ゲートルをくつから巻き直し
帽子をキチンと冠り直し
腕を組んで、胸を張つて
今は行動に移るばかりだ。
* * *
その時、俺たちは工場の上の雲を見あげた、
飾りけのない白雲、
雲よ、俺たちの滋養分とな
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