か考へてごらん、
人間が精虫から育つたものだといふことがわかるだらう、
それだのに、水鳥と人間との区別よりも
人間同志の間の区別がもつと酷いのだよ、
私に一人の友人がゐる
彼は智恵をもつてはゐるが、
依然として精虫よりも
もつと単純な生き方をしてゐる
半身は裸かで暑い陽の下で、
甲の場所から、乙の場所へ
荷物を運び移しそれを反覆するだけの生活だ、
彼は体を生きた手をもつて撫でてみた
そして確かに自分も生きてゐると呟やいた、
しかし彼はまだ理想を失はない
人間同志の比較を放擲してゐない、
彼は力が強く正義人であつた、
彼は浅草へ手品を見物にでかけた
彼は手品師の不正を見物席からみつけた、
彼は舞台の上に飛び上つて
手品師を石のトランクの中から引き出した
勇気はまだ全く失つたわけではない、
だが水鳥よ、水の上のお前へ
私が石を投げつけたことは
勇気の種類には入らない、
古い城は私の友人にとつては
何の関係もない地域のものである、
しかし私にとつては
古典を愛する私にとつては
眼に美しく映ずる
夢の中の物語りを
このあたりに来ると想ひだす、
悠久といふことがどんなことで
平和とはどんなことで
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