り巻く、
亡霊は全部追放者のやうな
顔つきをしてゐる
彼等の凍つた心がときに強い衝撃のために
ふいに溶けようとすると
以前にもまして強烈な寒気が襲つてくる、
心はいつも春がやつてきても溶けることがない、
4
古風な城は壁白く、美しく、
千万の善良な群が時折前を横切る
私は呆然と人々の群をみてゐた
行列は百足のやうにのろのろと進む
私の眼は円の中心にそゝがれ
そこの風景を美しいと思ふ――、
強いものはすべて美しいと思ふ――、
でなかつたら――、醜いほどに美しいか、どつちかだ、
行列は能の面をかぶつて踊りだす、
松の木の間から笛の音はひゞき
柔順な姿で人々は舞ふ
舞ひ終ると人々は面を脱ぐ
肉の密着した面を顔からはぎとる
5
すこしの恐れげもなく浮んでゐる水鳥に
私は石を投げつけてやつた、
古典の美の上にあそび
歴史の微笑の上に散歩する鳥
その悠々とした日常生活をみて
私は一種の嫉妬に似たものを感じた、
しかし水鳥よ、ゆるせ、
私がお前に石を投げつけ驚ろかし、
人間の虚勢を示すべきではなかつた、
水鳥よ、
お前は私といふ人間を、
いや一般的な人間といふものがどんなもの
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