といふことは乞食の第一の義務である、
といふ言葉を投げかけた、
そして心の中では呟やいた、
乞食よ、すべての市民は
お前のやうに謙遜だ――そして柔順だ、
かうして広い草地を見渡し
とほく石の門をみるとき
私は人間としての資格を失つたやうに身ぶるひするのだ、
すべての人間の魂は、静かな風景の中に沈む
詩人、ランボオの詩の一行のやうに――、
駅のある方角から
風はやさしくそよそよと吹いてきた
みどり色をたたへた美しさの
水のおもてをさつと吹きすぎる、
風は水のおもてや、水面に浮んでゐる水鳥や
たかく積まれた石にぶつかる、
風は日光を屈折させる、
石垣は光り、水も、風も光り、
みてゐる人間の心も反射する、
光りのいりみだれたチカチカとした白さ
たがひにするどさを競ふ二本の刃物のそれのやうに――
光つてゐないものは
うろつくことより知らない乞食のやうな群であつた、
彼等は謙遜だ、だから何ごとにも反射的ではない、
彼等はすべてを吸収し、収容しようとして
それができない、
彼等は何事もやりかけた仕事も泥の上に投げる、
与へる者が現れなければ
彼等は自分の物を投げて
それを自分で拾つて楽しんでゐる、
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