一枚一枚丁寧に吹いてすぎてゐた、
私は思はず呟いた
――一刻も早く
 こんなロクでもない
 平安を求める心を掃き出してしまへ、と。


今月今夜の月

人間の世界では
おれを殺さうとするのか、
生かしておかうとするのか、
どうしようとするのだ、
それとも俺の勝手次第であれといふのか、
誰か早く、おれの哀しみをさらふ
塵取りを持つて来てくれ。
生命の消[#「消」に「ママ」の注記]費を
それですくつて
遠くの方まで、林の中まで
海の果てまで
人間の見てゐないところへ、
月だけが俺を見てゐるところへ、
捨てに行つておくれ。
そして私は捨てられた、
若いのに姥捨山に――、
仰げば、一昨年の今月今夜の
この月は
政治に憑かれ伝単を持つて
波打際をうろついたものだ、
そして私は貫一のやうにではなく
お宮のやうに政治に足で蹴とばされた。
今はどんなに時間をかけて
泣いてゐようが、
喚めいてゐようが、
ぶつぶつ不平も言つてゐられる
交番の前も大手を振つて歩るけるし、
かういふ性質の
自由は困つたものだ

忘れたのか、
私よ、お前よ、
われらは依然として、
アジプロの詩人であり、
アジプロの詩人でなけれ
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