の葉をただの一枚も
  落さないほどに
  じつとしてゐて
  静けさを私に与へてくれ
その時風は轟々と鳴りだし
風は林を吹きぬけた
さまざまの微妙な物音が
いりみだれて騒がしくなつた、
そして林の物音は私に斯ういつた
――君のいふやうな
  そんな静かな林などは
  この世におそらくないだらう――。

私は反省した
闘争の激化のなかに
なぜ私は林の静けさに脱れて
きたかつたのだらうか、
あゝ、若し私の求めるやうな
静かなところを探すのであれば
――その場合は死だらう、
林の中には首を吊るのに
手頃な枝がたくさんあつた、
また頭をうちつけるに
もつてこいの堅い樹があつた、
おそろしい精神の怯懦よ、
たゝかひの疲れ、
肉体の虚弱、
私の非プロレタリア的な一切のもの、
そいつが私を林の中まで引つぱつてきた
――死は最大の静かなところだらう、

梢はざわめき、
風は樹々の間をふきぬけ、
遠く街の騒音がきこえてくる
こゝにも何の平静さもない
目にふれるところに
小さな生き物がゐた、
この昆虫たちはしきりに
何物かの目的にむかつて動いてゐた、
みあげればそこには、
空があり雲があつた、
風は葉を
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