姿をみせなければ、
小さなフワ[#「ワ」に「ママ」の注記]ン達が承知しないだらうから。
君は勝負を超越してゐる、
つまり真個《ほんと》うの相撲道に入つたわけだ。
この世に静かな林などはない
私は留置所から出てきた
私は目に見えてグングンと痩せていつた
私は部屋に寝床を敷いた
そしてそこへ突んのめされたまゝの姿勢で死んでゐる人間のやうに
じつと身動きもせず数日間眠つた
しかし気持は少しも静まらなかつた
おだやかにはなれなかつた、
早く逢ひたい友達がたくさんゐる、
留置所の中のこと
読みかけの本
窓へはげしい日光の反射、
私は焦々して寝床を離れ
郊外の林の中へでかけていつた、
林には名も知れない小鳥が囀つてゐた
――おしやべり奴が、
くさむらには虫がゐた、
――目に見えないやうな小さな虫が、
そこで私は林の中に立つて
林の樹々にむかつてひとりごとした
――林よ、自然よ、
私はお前の傍へ
どんなに来たかつただらう、
闘ひから暫し離れて
しづかなお前のふところに
抱かれたかつたのだよ、
林よ、
私は静かなところが大好きで
お前の処にきたのだ
お前は樹
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