おらあ、相撲を失業すると
死んでしまふわい』
君だけは特別な条件で
髷を切るのはゆるされた、
人を切るのが武士《さむらひ》ならば
飯を喰ふのはお相撲さんだ、
一個の弾が
空からふんわりとをちると
何米突四方かの煙があがる、
何米突四方かの利権が
君が朝飯の粥をさらさらやるとき
四人の百姓が腹をへらしてゐる
君は不生産的なスポーツだが
われわれを楽しましてくれる、
だが所謂国技の継承者として
日本の食糧問題に就いて
感想がありさうなものだ、
武蔵関は
個人主義的に解決した
相撲をやめて拳闘入り
彼は牛を馬に乗りかへた
彼は幾分かしこい
そしてブルジョアスポーツの仲間入り
君は純情に泣き
相撲に永遠の未練を残す
君は君を産んだ
母親を決して恨んではいけない
君は何時か、村を出発するときの
ことを覚えてゐるだらう、
『この児は実に良い体格ぢや
相撲がよい、
将来は相撲にさつしやい――。』
と村長を始め村の衆が騒ぎたてた、
『あのとき作男か
水車番にしてくれたらなあ――』と
君は決して母や村の衆を
恨んではいけない、
村の作男や水車番は、
今はあべこべに斯う思つてゐるのだ、
『相撲に
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