玩の蘭の手入れ
一枚一枚その筆で葉を洗ふ仕事
それを毎日繰りかへす。
一人の女中さんは
お米を一粒づつ選む仕事
虫喰ひのないやう、
欠けたのがないやう、
完全な丸さのお米を選む、
一人の女中さんは、
その米を三時間
ザクリザクリと
玉のやうに磨きあげる仕事、
一人の女中さんは、
狆の散歩の御相手、
一人の書生さんは、
坊ちやまの御相手、
坊ちやまと言つても
当年二十三歳の坊ちやま、
この大坊ちやまが空気銃を手にして
大きなお庭を走りまはるとき
彼は空気銃の弾を
手の上にのせて尾いてあるく役、
それぞれ役あり、
すべて芽出たい
かなしい役ばかり。
真人間らしく
自由を愛する道化師が
笛をとられて
指をくはへてゐるわけにはゆかないから、
わたしは吹くのだ、口笛を、
ところ嫌はず吹きまくるのだ、
ピューと、口笛を、
安眠を妨害するのだ、
人間よ、
泣かずにゐて
泣いたツラをしてゐるお前、横着者よ、
怒らずにゐて
怒つたふりをしてゐるお前、卑怯者よ、
さあ、さあ始めたり、
私のピヱロのやうに
真に泣き、真に怒り、
真にあいつらに刃向つてみたまへ、
どいつも、こいつも
真人間らしく
気取
前へ
次へ
全43ページ中27ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小熊 秀雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング