から

青い海原の竜宮城
そこの竜宮城の王様は
高い物見の櫓《やぐら》を建てよと
とつぜん魚の建築師に御下命ある
『王さま
 魚民共は不景気で苦しんでゐます
 今は左様な出費は
 適当とは思ひません』
と忠告する
『建築師よ
 いやいや、それはわしの享楽のために
 けつして建てるのではない
 わしの息子や娘のために
 ヤグラの上から魚民共の
 生活を見せようためぢや
 子供たちが
 下情に通じなくては
 立派な竜王として
 わしの後継にもなるまいからぢや』
建築師は恐縮三拝
竜王の思慮のふかさ
魚民を思ふふかさに感激し
そして高い物見櫓は
城の中にたてられた
可愛らしい王の息子や娘たちが
そこへ上つて下を見おろす
子供たちはヤグラの上ではしやぐ[#「はしやぐ」に傍点]
――あれあれ、あそこを
 海藻のかげを
 汚ならしい格好をした
 物売りが通つてゆく
――あれあれ、あそこを
 珊瑚の樹の下で
 泣いてゐるものは
 なんだらう
 カツオやマグロやトビウオ達
 警護のものは大慌て
 櫓から見える範囲のところの
 住民どもに厳しい命令《おふれ》
――肌ぬぎで庭に出るのはいけない
――赤坊の
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