から
青い海原の竜宮城
そこの竜宮城の王様は
高い物見の櫓《やぐら》を建てよと
とつぜん魚の建築師に御下命ある
『王さま
魚民共は不景気で苦しんでゐます
今は左様な出費は
適当とは思ひません』
と忠告する
『建築師よ
いやいや、それはわしの享楽のために
けつして建てるのではない
わしの息子や娘のために
ヤグラの上から魚民共の
生活を見せようためぢや
子供たちが
下情に通じなくては
立派な竜王として
わしの後継にもなるまいからぢや』
建築師は恐縮三拝
竜王の思慮のふかさ
魚民を思ふふかさに感激し
そして高い物見櫓は
城の中にたてられた
可愛らしい王の息子や娘たちが
そこへ上つて下を見おろす
子供たちはヤグラの上ではしやぐ[#「はしやぐ」に傍点]
――あれあれ、あそこを
海藻のかげを
汚ならしい格好をした
物売りが通つてゆく
――あれあれ、あそこを
珊瑚の樹の下で
泣いてゐるものは
なんだらう
カツオやマグロやトビウオ達
警護のものは大慌て
櫓から見える範囲のところの
住民どもに厳しい命令《おふれ》
――肌ぬぎで庭に出るのはいけない
――赤坊の
前へ
次へ
全43ページ中23ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小熊 秀雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング