アスを、
私の言葉に驚ろいて飛びあがれ
――理解されない思想は
  恥辱だそ、
静粛にしろ
マルクスからの伝言だ、
きのふ墓場で彼は
私の肩をたたいてかういつた
――わしはもつと
  真理を
  単純に
  説いた筈だが――と
そこで私は
一つより知らない
片言のロシア語で答へた、
――タワリシチ  (同志)
  マルクス   (マルクスよ)
  ヤポンスキイ (日本人は)
  マアリンケ  (小さくて)
  ホダホダ   (駄目だ、駄目だ)
私と彼とは
声を合してハッハと笑つた
日本人の人柄は
一望千里の大きな思想を
もち扱ひ兼ねてゐる

日本の智識階級は
プロレタリアにではなく
十二支腸のために
イデオロギーを説く
口から入つて
尻まで出るのに
なんと手間ヒマの
かゝることよ、
――お早うございます
  お竹さん
  さよなら、
鸚鵡のイデオロギイの一つ覚えを
深刻な猿の金切声を
玄関から追つ払へ、
私は善良の頭目として
直さい、無垢の言葉をもつて
若い新しいお客を迎へよう
詩はオブラートなり
情熱は下剤なり、
私の善良、単純な
笑ひをもつて
人々の悪寒《おかん》を救ふ


高い所
前へ 次へ
全43ページ中22ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小熊 秀雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング