かい貧乏と
たたかひながら生活してゐると
自由の騎士は気が益々荒くなる、
飯は喰へず
いたづらに詩が出来るばかりだ
私の野放図な馬鹿笑ひは
肥えた方々の機嫌を損ずる
現実は砥石さ、
反逆心は研《と》がれるばかりさ、
かゝる社会の
かゝる状態に於ける
かゝる階級は
総じて長生きをしたがるものだ、
始末にをへない存在は
自由の意志だ、
手を切られたら足で書かうさ
足を切られたら口で書かうさ
口をふさがれたら
尻の穴で歌はうよ。


慾望の波

     1
彼は人々の生活をじつと凝視した
するとヒシヒシと悔に似たものが襲つてきた、
居ても立つても居られない程になり
悔は苦しみに変つてきた
黙々と人々は生活する、
辞書の「××」といふ言葉を人々は忘れない
依然として反抗といふ言葉は
反抗といふ文字として変らない
ただ変化したのは人々の
争つてゆく方法であつた、
人々は平穏を何よりも愛してゐた、
最も消極的な形で
自己の生活の周囲に垣をつくつた、
その垣は己れの主人の
垣と隣り合つてゐるといふ意味で
最も安心な平穏な垣であつた、
彼は人々がそのやうに
執拗さをもつて争ひを
避けてゐる様子をみるとき
己れの悪魔のやうな性格を恥ぢつゝ
人々の平穏に
新しい苦しみを植ゑつけることが
果してあの人々にとつて
幸福となるか
悪魔はまたこの人々にとつての
悪魔の招来を約束できるか
どうかといふことに疑ひ始めた。

     2
明日のことは判らない
ただ明瞭なことは彼自身の
もつてゐる慾望の性質である。
あらゆるものを征服し
尽さうとするときの
彼の行動は
どのやうな死のやうな
静かな野へも風を捲き起す
しづかな野や其処に生活する
ものにとつて果して彼の行動は
愛され感謝されるだらうか
彼の慾望は高い
低い慾望家たちにとつて
彼は何時も嫉妬されてゐる
ましてや平凡な生活人にとつて
彼が真理を語るときは
いつも風を捲き起すから
彼はにがにがしく見かへされる
事実、湯にひたつてゐるやうな
静かな生活といふものもある。
また何の不足も己れ自身には
感じてゐない人々も少くない、
かうした人々の生活の
窓へ彼が顔を突込んで
中をのぞいて叫ぶとき
女達や子供達はキャッと叫ぶ
そして主人は身構へをする
平和な人々は口々に罵る
――彼は不幸をもつてきた、と

     3
沈鬱な人々も少くない
彼はそ
前へ 次へ
全22ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小熊 秀雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング