この必然性の前には自信をもつことができる、
女たちのために
プロレタリアの色男を気取ることもできる、
私は君のやうに肉の中から
精神を叫びだしてはゐない、
私はそれがとても怖いのだ、
君のやうに肉とズボンのポケットに
君の精神をあつちへ入れたり、こつちへ入れたり
してゐる間に、精神をなくしてしまふやうなことが怖いのだ。
マヤコオフスキイよ
君は我々後進者の教師だ、
生きてゐるものにとつて
君の自殺は昨日の出来事だつた
私は昨日の出来事を見落さない
私にとつてもソビヱットにとつても
世界のプロレタリアにとつて
君やヱセーニンはルビだ註釈だ、
そして我々の辞書は豊富になつた、
自殺といふ頁を繰るとすぐ君等がでゝくる。
その意味でも君の死は、
プロレタリア的死は
無数のタワリシチの死と共に意義深い、
死ぬほどに苦しんだ君よ、
マヤコオフスキイよ、
君は
『日の牡牛はまだら
年の荷馬車《アルパー》はのろい――』と
立派に歌つてゐたのにかかはらず
情熱は手綱をきり馬を突離してしまつた君よ、
私は君のやうな自殺はできない
死よりも、生きる責任の強さのために、
よし、たとひその生が
死よりも惨めなものであつても――。
新らしい青年へ
彼はクソ真面目な
わからず屋のやうな青年だ、
彼は不機嫌な顔をしてゐる
ときどき大きな声で爆笑する、
彼はふかく沈黙し
彼はつよく雄弁になる
彼はもう敵の言葉を借りない
彼は青年の言葉で語る
この青年は過去を忘れたのではない
過去を知らないのだ、
彼は全く新しいのだ、
これからつぎつぎと引き起される過失もまた
新しい過失であつて
古いそれではない
彼はそれを避けられないだらう
過失を起す勇気をさへも、
新しい成功は
彼の計算したもので
新しく始められる
彼はもう卑《いや》しくならない
疲れることの知らない
青年の生命、
花の上の蜜蜂、
断えることのない労働の子、
彼は新しい
足の裏をもつてあるく
新しい大地を――
彼は古い麻痺から脱れた、
そして新しい麻痺が
彼を愚鈍にすることを
警戒せねばならない
麻痺を救ふものが
若い行為であることを
忘れてはゐられない
現実の砥石
君よ、早く材木屋に
行つてきてくれ
何しに、材木を買ひにさ、
それで座敷牢を建てるんだ
誰のために
君が入るためにではない
自由といふ我儘者が入るためにだ
執念ぶ
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