やうに
この善人が速に地獄に墜ちますやうに
俺はお祈りして居るのだ……
海底の凝視
なんといふ混濁のみな底だ
俺の凝視をちから強く追ひ返す
みな底の
凝視の主はだれだ。
×
砂にうづもれた
重い赤銅の壺であつたなら
あをい燐光をはなせ
漆黒の
魔女の脱け毛であつたなら
なよなよと
水面に浮かんでこい
×
おお…俺は…お前の
どす黒い水の厚さに魅せられて
心のふるひが止まらない
心のふるひが止まらない
×
おお…それは
しんとしたうす暗い深林の
黄昏の炎樹に
なかよく抱きあつて死んでゐる
白い獣達のながす
赤い液体が
谷底の苔をつたつて海にいり
砂鉄の微粒となつて
魅力の凝視をはなすからだ
×
ああ…月が出て月が出て
歪んだ月が出て
水面の皺が
にやにやと笑つてゐる。
青じろく
笑つてゐる。
乳房の室
壁も天井も丸テーブルもすべてが肉でみんなぶるぶるふるへて
みんなだるい汗をながして
歩るくとじわじわと音がして
からだが上つたり下つたりする
棚におかれた肉製の百目蝋燭が
げんわくの香気をはなして
じゆじゆとあぶらのもえるやうに
恋のほのほがねんせうする
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