定型詩的現実はみつからないのだ、
それは小生にとつては
悲しむべきことだ
況んや君は定型詩で
詩を真実を
チョコレートかゼリーのやうに
菓子型に入れて
ポンポン抜いて作らうといふ寸法だな、
小生は、ただ呆然と君の主張を
捧げもちて余光を拝すのみだ。
ゴルフリンク
金曜日は恐ろしい嵐がふきまくつた
土曜日には晴れた
貴婦人の牡丹バケで
丹念に肌をたたいたそのやうに
雨で具合よく地がしめつた
日曜日には風もなく、埃りもたてぬ
お誂へ向きのゴルフ日和、
――滅法空が澄んで
なんと気持がよいだらう、
天は我々のために恵ぐむよ、
天は救くるものを救くるさ
ゴルフ紳士達は嬉しさうだ、
鉄道の配車係りは
ゴルフ場行十輌連結
特別列車は[#「は」に「ママ」の注記]出発させる
×
破れた農家では母親ががなる、
――吉弥あ、
けふは旦那たちがゴルフに
御座らつしやるだよ、
早う駅へ駈けろ
汽車が着くだ、
母親は暗い押入れの中から
ススけた行李を引ずりだして
たつた一枚よりない取つて置きの
紺絣の着物を出して子供にきせる
子供はボンヤリと立つてゐる、
――吉弥あ、
何でもいゝから、
ハイハイいふて頭下げるだ、
まちがつても楯つくでねいだよ、
土百姓の餓鬼が
銀行さまや、活動のお嬢さまや、
偉い、位の旦那の前に出るだあ、
そそうのねいやうにしろよ、
何でもハイハイいふて
口ごたいするでねいぞよ、
すると子供はうんうんうなづく
――おつかあ
行つてくるだ、
おつかあ、また
チョコレート貰つてくべいか、
――馬鹿あコケ、
貧乏人の餓鬼は
貰ふこと許り考へてゐるだ、
旦那方もの食ふても、
ぢろぢろ見るでねいぞよ、
何万円のしんしようの旦那がたと
水呑百姓のわしらと
いつしよくたにならねいだぞ、
いゝか判つたか、
判つたら、出かけるだあ、
すると子供はうんうんうなづく
そして一散に駈けだす
×
見渡すと広い大ゴルフリンク、
緑りの草ははるかに
なだらかな丘のかなたにつづく、
――どうして此処にこのやうな
広大な地域が残されて
ゐたのだらうと
汽車の窓からみた者は
誰しも疑ひをもつ程にも
誰に遠慮会釈なく
この人々の健康のために
土地は遠くまで
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