愛すれば苦しき町とかはりけり空澄める町にすみかねるなり

去りゆけど思ひはいつもとどまらぬ石狩川の白き堤防

北海に愛歌をつくるめでたさを友よ責めるな真実なれば

ぱつちりと東京行のきつぷ切られけりやうやく帰る心となりぬ

石狩の少女の胸の白さかなとをくとどろく鉄橋の汽車

動揺をあたへて去れどゆるし給へときくれば咲く鬼げしの花


旅歌

鎌倉にて

横顔は多少美し大仏の背中に窓があいてゐるとは

さほどまで美男にあらず鎌倉の大仏さまは喰は(せ)ものなり

逗子にて

生きるにも死ぬにも不便なところなり逗子の汀は遠あさなれば

逗子の海波のくらさの折返しくだけ光るは夜光虫かな

手の上に消えるともせぬ夜光虫つめたくひかる虫の心かな

風荒れもいつかはやまるときあらんゆれてやすまぬ樹の心かな

小坪にて

小坪にて川島浪子と逢ひにけり汀で犬とたはむれてゐし

美瑛にて

ゆらゆらと千城橋の行きかへり風にふかれて吸ふ煙草かな
(煙草を吸へば味のよきかな)
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小熊秀雄略年譜
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